カレーに関する5つのデマその3 阪急百貨店の小林一三関連エピソードのデマ
さて、「カレーライスと日本人」を書いた森枝卓士さんは、「明解簡易料理法 The Art of Cookery made Plain and Easy」の発行年1747年を1774年と間違えて、ヘイスティングデマの拡散に貢献してしまいます。
その森枝さんが監修した、子供向けの学研の本「みんな大好き!カレー大百科―カレーのはじまり物語」が出版されたのは去年、2016年なのですが
1774年……「カレーライスと日本人」を書いた1989年から27年も経過したのに、まだ「1747年」を「1774年」と間違えている……。
それどころかC&Bがカレー粉を発明したという古典的デマまでも載っています。
なんでも森枝卓士さんは、盗作と捏造の詐欺本「幻の黒船カレーを追え」を新聞の書評で推薦していたそうで。
子供向けのカレー入門本にデマを載せるは、水野仁輔さんの詐欺の片棒をかつぐはで、ことイギリスのカレー史に関してはデマを拡散させるばかりのお仕事ぶりですね。
さて、森枝卓士さん監修の学研の本におけるデマはイギリス関連だけではありません。
このシリーズの続き「みんな大好き!カレー大百科―カレーの日本上陸」には、阪急百貨店創立者小林一三が海外航路のカレーを研究して百貨店に持ち込んだと書かれています。
”百貨店の開業前に、ヨーロッパを旅する船の中でカレーを食べたことがきっかけになり、百貨店の食堂のメニューにカレーを取り入れられないかと考えました。そこで、さっそく船のコックからおいしいカレーのつくり方を教わり、研究をはじめたといわれています。”
小林一三と阪急百貨店のライスカレーについての逸話は、この「外国航路のカレーを研究して持ち込んだ」パターンと、「外国航路でカレーに福神漬をつけることを学んで持ち込んだ」パターンの2パターンがあります。
https://datazoo.jp/tv/%E5%A6%84%E6%83%B3%E3%83%8B%E3%83%9B%E3%83%B3%E6%96%99%E7%90%86/826793
”明治35年ごろ、ヨーロッパに向かう貨客船のシェフがカレーの付け合せとしてチャツネの代わりに乗せたところ、それを実業家の小林一三が大変気に入り経営するデパートの食堂で出して評判に。そこから定番となった。”
この2つの逸話、いずれもデマです。
梅田に阪急百貨店が開店したのは昭和4年。昭和4年の時点で小林一三は日本から出たことはなく、外国航路の船に乗ったこともありません。
小林一三が生涯で初めて外国航路の船に乗ったのは昭和10年。阪急百貨店ではそれ以前からライスカレーをだしていましたし、そこに福神漬もついていました。つまり阪急百貨店開店時のライスカレーも福神漬も、外国航路とは関係ありません。
福神漬についてさらにいえば、ライスカレーだけでなくステーキにもカツレツにも、付属のライスには全てつきました。興味のある方は”ソーライス"で検索してください。
しかもそれは阪急百貨店独自の風習ではなく、三越などの東京の百貨店を含めた一般的な慣習だったのです。
福神漬が”カレーにのみ”つくようになったのは第二次世界大戦後の話です。
詳しくはと学会誌39号掲載の拙稿、「福神漬とカレーライス」を参照してください。
https://www.amazon.co.jp/dp/B07GVLZXKZ